美しい手紙だ。人間としての優しさ、強さ、思いやり、そして若者の希望と夢に満ちている。だが惜別の詩のような感じも抱かされて無限の哀しみをも誘う。
親子関係がぎくしゃくするケースの多い今の日本でこういう手紙を書ける若者が一体何人いるだろうかと思う。
人生はアンフェア−なものだとつくづく感じさせられる。貴光君のような大きなポテンシャルと輝かしい将来を持った人材が天災で命を失うのに国家国民を窮地に追い込んでいる恥知らずの政治家や官僚がのうのうと生き延びる。ネズミやゴキブリはなかなか死なないものだ。
それにしても貴光君のような青年を創り上げた親とはどんな人なのだろうか諸君もおれ同様大きな興味を覚えるはずだ。そこで母親の律子さんの許可を得て彼女がおれ当てにくれた手紙の全文をここに載せる。
『五月二十六日の夜関西ではメイ・ストームが吹き荒れたと聞きました。こうして繰り返す自然の営みの中で生き、次代に継承していく人の生命その儚い光であるが故にこの一瞬を大切に生きなければ…と、思い切ってペンを執りました。
突然お手紙差し上げる失礼をどうかお許し下さいませ。
私は広島市在住の加藤と申します。会社員の夫との間に息子が一人おりましたが、1995年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災で倒壊したマンションのがれきの下で圧死致しました。
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